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第6章 アトピー性皮ふ炎 の 原因と構造

6−1 アトピー性皮ふ炎の原因

第2章でアトピー性皮ふ炎の外因を、第3章で内因を見てきました。それらをまとめてみましょう。図は、乳幼児のアトピー性皮ふ炎の原因です。

出生後の外因

塩素入り水道水での
入浴を繰り返す

合成洗剤で皮脂を
こそぎ落とす


  

出生後の内因

母乳や離乳食に
亜鉛が不足している

母乳や離乳食の脂肪酸の
バランスが、オメガ6の
過剰になっている



胎内での内因

母親がステロイドを
常用していたために
子の過敏性が増す


図 乳幼児のアトピー性皮ふ炎の原因


上図の3つの要素が、乳幼児のアトピー性皮ふ炎の原因になっていると考えられます。
そして、

これらのうちのどれか1つでもが、ある限界値を越えると、乳児の皮ふには必ず炎症が起こるでしょう。
たとえば水道水の塩素濃度が 3 PPM(日本の現状は 0.5〜1.5 PPM )を越えるとか、亜鉛が大幅に欠乏する(50μg/gくらいか?)とか、出生時のIgE値が 3.0 以上あるなどという場合です。
限界値以下の場合は、ある確率で皮ふ炎が発生します。
これらの原因のうち2つが重なると、それぞれが単独での限界値より低くても、多くの乳児に皮ふ炎が生じるでしょう。
たとえば、水道水の塩素濃度は 1 PPM 程度であっても、亜鉛が不足気味である子は皮ふ炎になりやすい、などです。

3つとも重なれば、皮ふ炎の発生率はほぼ 100%となるでしょう。


これらの皮ふ炎は、それぞれ主たる原因別に、「残留塩素性皮ふ炎」、「亜鉛欠乏性皮ふ炎」、「新生児過敏性皮ふ炎」などと呼ばれるべきものでしょう。そのうちの「残留塩素性皮ふ炎」が、1933年に認知された、世界共通の本来のアトピー性皮ふ炎で、ほかの2つは、わが国で最近増加してきた新しい皮ふ炎です。
しかしわが国では、これらをすべて「アトピー性皮ふ炎」と診断し、これを本人の遺伝的体質に由来するものと決め、原因を排除することなく、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、およびステロイド軟膏を乳児に投与しています。生後2週間の新生児の皮ふにステロイドを擦りむことさえ、日常的に行われています。
第3の、胎内での内因として、母親のステロイド歴が子の過敏性となって現れ、それが子にアトピー性疾患を発症させるという現象はまだ少数ですが、アトピー第2世代としてこれから急速に増えるものと思われます。本書の冒頭で紹介した大阪教育大学の新入生の統計で分かるように、20代の女性には、幼時からステロイドホルモン剤の影響を受けてきた人が、23%もいるからです。

補遺
現代日本の乳幼児のアトピーは、ここに述べた3つの原因が重なっていると思われますが、個々に見ていくと、その重なり具合には差があるようで、
 (1)外部刺激性のアトピー 「出生後の外因」が強く作用しているアトピー
 (2)栄養不調性のアトピー 「出生後の内因」が強く作用しているアトピー
 (3)胎内起因性のアトピー 「胎内での内因」が強く作用しているアトピー
の3種類に分かれるように観察されます。そして、それぞれの特徴は以下のようになっているものと思われます。
「外部刺激性のアトピー」の特徴
外部刺激に対して体の防御反応が正しく作動して生じる炎症。軽いヤケドのようなものなので、初期に正しく処置すればそれほど心配はいらない。
◆炎症は比較的遅く、生後半年くらい「活動してから」発生する。
◆炎症は、体のくびれた部分(ヒジの内側とかヒザの裏側)や、
 よくこすれる部分(足の甲、エリぐち、そでぐち、など)に多く発生する。
◆初期のうちは顔面には炎症は起こらない。
◆頭部にフケがたくさん発生する。
◆体全体に皮ふがカサついており、炎症はザラザラして分厚くなっている。
◆刺激を避けていれば、時間はかかるがだんだんよくなる。
「栄養不調性のアトピー」の特徴
外部刺激に対して過不足なく反応するための栄養素が不足して、誤作動を起こして生じている炎症。栄養を補給することで比較的短期間で良くなる。
◆炎症は比較的早期に、生後数週間の内に発生する。
◆炎症は、体の平らな部分(腹、背、腕、ふくらはぎ、ほお)に出る。
◆炎症は顔面にも出る。
◆炎症は赤く腫れ上がってジュクジュクしている。
◆正しい処置が行われない場合、気管支炎(小児ぜんそく)に進むことが多い。
◆栄養状態を改善することで、短期間で良くなるケースが多い。
「胎内起因性のアトピー」の特徴
胎内にいる時にIgEの初期値(出生時のIgE値)が高めに設定されたために、出生後の外部刺激に対して非常に敏感になって生じる炎症。胎内の原因については、本書で述べた母親のステロイド歴の可能性だけでなく、「羊水の汚れ」や「産道の細菌感染」などを指摘する人もいる。対策としては上記の二つのタイプに準じるしかないが、むずかしい。「予防」が最善の対策。
◆炎症は比較的早期に、生後数週間の内に発生する。
◆炎症は、体のあらゆる部分に、境目なく広範囲に発生する。
◆炎症は顔面にも出る。
◆炎症はジュクジュクしている。
◆出生時にIgE値が高く、アレルギー反応が強く出るケースが多い。
◆気管支炎(小児ぜんそく)を併発することが多い。
◆ほかの二つの型に比べて、自然治癒までに時間がかかる。

しかしながら、以上の3タイプの疾患は、「治療」と称してステロイドなどの薬剤を投与、塗布することによって、ごちゃまぜになって「ステロイド性皮ふ炎」に収斂してゆきます。そうなる前に、上記の特徴に照らして、ご自分やお子さんのアトピーがどのタイプかを見極めて、タイプごとの重点的な対策をとりましょう。
また、アトピーが第2世代に引き継がれつつあり、「胎内起因性のアトピー」がしだいに増加しているようです。赤ちゃんのアトピー予防プロジェクトが急がれます。


一方、成人のアトピー性皮ふ炎の場合は、同じく大阪教育大学でのデータで分かるように、その大部分は乳幼児期に発生したアトピー性皮ふ炎が持ち越されてきたものです。ですから、大部分は上の図で説明できます。
しかし一部には、それまでまったく兆候もなく過ごしてきた成人が、突然皮ふ炎になることがあります。それはおそらく、何らかの化学物質や金属などに触れてかぶれたもので、その中には、「化学物質過敏症」も含まれていると思われます。しかし、わが国ではこのような皮ふ炎も、結局はアトピーと診断されることが多いようです。
筆者の知る範囲では、除草剤を使って庭の草取りをしているうちに、突然顔に皮ふ炎ができてきた、高校を卒業して喜んで髪にパーマをあてたら、パーマ液でかぶれた、花屋に勤めるようになってしばらくしたら、体幹に皮ふ炎が起きてきた、などという例があります。それらの人々は皮ふ科を受診し、はじめのうちは「接触性皮ふ炎」などと診断されていましたが、「ステロイドで治る」という見込みでステロイド治療を受けるうちに治らなくなり、結局、「体質によるアトピー性皮ふ炎」と診断されてしまいました。その後の経過は、アトピー性皮ふ炎の人と変わりません。このようなケースでも、「かぶれやすさ」という後天的な内因はあったのかも知れません。また、日常的な水道水の塩素や 合成洗剤の刺激で皮ふが傷められていたのかも知れません。ですから、成人になって突然発症した「アトピー性皮ふ炎」の原因構成は下の図のようになっていると考えられます。


直接の外因

化粧品/除草剤
新建材/消毒剤
ステロイド


日常的な外因

水道水の塩素
合成洗剤


体内の内因

亜鉛の不足
脂肪酸の偏り
幼児期のステロイド
図 成人のアトピー性皮ふ炎の原因

幼児期にステロイドを使ったかどうかは、本人も親も忘れていたり、そもそも何を使ったかを知らされていないこともあり、見分けにくくなっています。しかし、ステロイドはホルモン剤ですから、思春期になってホルモンバランスが変化して、幼児期に使っていたステロイドホルモンの影響が出たと考えられる例がたくさんあります。
多くの若者たちが、小学校の頃は収まっていたのに、中学2,3年の頃から悪化してきたという経験をもっています。女性の場合は、結婚、妊娠、出産という時期にホルモンのバランスが変化するのでしょう、その時期に、昔使っていたステロイドの影響が激しく現れたという事例が、「民間伝承」として数多く語られています。このことも当然、現代日本のアトピー性皮ふ炎の問題を考えるための、重要なジグソーパズルの切片のひとつなのですが、医者たちは素知らぬ顔をしています。


6−2 アトピー性皮ふ炎の構造


        図 アトピー性皮ふ炎の構造


現代日本で「アトピー性皮ふ炎」と呼ばれている皮ふ炎の構造は、右図のような「雪だるま」で表すと理解しやすいでしょう。

(1)まず、現代日本の全体状況として、食品添加物、残留農薬、化学物質の氾濫、および、農地のミネラル分の流出、などの土壌があります。アトピー性皮ふ炎という「雪だるま」は、そのグラウンドの上に作られます。
(2)雪だるまの胴体は、乳幼児の場合は、水道水の塩素や合成洗剤などの外因と、ミネラル不足、脂肪酸の偏り、母胎のステロイドなどの内因とで作り上げられます。成人の場合は、さらにさまざまな化学物質、および自分自身の幼児期のステロイド使用歴が、胴体部分を構成します。
(3)このようにして発生した皮ふ炎に、医者によってステロイドが乗せられて、雪だるまの頭部となります。気軽に処方される抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤などの薬剤も、アトピー性皮ふ炎の頭部を構成する要素となっています。
(4)その頭に「黄色ブドウ球菌」の帽子をかぶせて、雪だるまは完成です。アトピー性皮ふ炎の人の皮ふは、損傷していますから、黄色ブドウ球菌を始めとするさまざまな細菌が繁殖します。それがさらに炎症を悪化させ、痒みを増します。細菌感染は、アトピー性皮ふ炎の構造の一部を形成しているのです

アレルギーはアトピーの影
(5)出来上がった雪だるまは地上に影を落とします。その影は、照れば現れ曇れば消える、変幻きわまりないもので、またの名を「アレルギー」と言います。昔から、影と戦って勝ったためしはありません。アレルギーとの戦いがエンドレスになるのは、それがアトピー性皮ふ炎の「影」だからです。


6−3 遺伝子は関与していない   環境が100%

以上のように、アトピー性皮ふ炎の原因と構造は、「遺伝子に何か書いてあるのだ」などと証拠のないギャンブルをすることなく、受胎の瞬間を「天」とした、母胎内での環境を含む後天的な環境の問題として、合理的に語ることができます。これは4年前に、「アトピー素因がなくても、人はいくらでもアトピー性皮ふ炎になる」という、60年ぶりの大発見(P7厚生省調査)があって以来、アトピー性皮ふ炎の問題を多少とも合理的に考えようとする人々にとっては、当然の推論でしょう。

成人男子の平均精子数は、1938年から1990年にかけてほぼ半減した。同時に精巣がんの発生件数がデンマークをはじめ諸外国でも激増していたのだ。ごく短期間に精子の質と量が変化し、生殖器異常が激増したことから、研究者は現象の背景に遺伝的要因はまず作用していないとみた。変化の原因は何らかの環境要因にあると考えたのである。  
(シーア・コルボーン他 「奪われし未来」(Our stolen future)翔泳社 1997)


これが、合理的なものの考え方というものです。1933年に認知された奇妙な皮ふ炎が、最近急激に増加してきたのですから、その背景には「遺伝的要因はまずない、変化の原因は何らかの環境要因にある」と考えるべきです。原因が不明なのは遺伝ではないか、と60年前の知見で一時的に留保したのは分かりますが、その後、遺伝学の研究も進み、厚生省の調査結果も出た現代に、まだそんなことを言っているのは非科学的です。
「アトピー性皮ふ炎になりやすい素因」と「環境の変化」とが呼応して、アトピー性皮ふ炎が増えているのだという、従来の「2本柱」の説明でいいじゃないか、と未練を残す人もいるでしょうが、そのような意味での「素因」とは、あるに決まっていて、結核になりやすい素因も、胃ガンになりやすい素因もある(1−1)わけで、アトピー性皮ふ炎だけ特別に言っても、何の意味もなさない(=ナンセンス)のです。
アトピー性皮ふ炎に遺伝子が関与しているとは、臨床医たちがそう言っているだけであって、臨床医は科学者ではなく、遺伝子について特に知識があるわけでもありません。遺伝子の形を P84 で紹介しましたが、遺伝子の本質的な機能について、上述の「奪わわれし未来」に巧みな表現がありますので、紹介しておきましょう。

遺伝子とホルモンとの関係は、自動演奏ピアノとミュージック・ロールとの関係に似ている。ピアノは理論上、どんな曲でも奏でられるはずだ。しかし実際に演奏できる曲は、ミュージック・ロールに開けられた穴で決まる。遺伝子とは鍵盤であり、ホルモンとは作曲家なのである。 (シーア・コルボーン他 「奪われし未来」 翔泳社 1997 前掲)


自動ピアノは、日本ではコンピュータ制御になっています。この文章はホルモンと遺伝子との関係を述べたものですが、環境と遺伝子との関係についても示唆に富む表現となっています。
アトピー性皮ふ炎の原因に触れてアトピー性皮ふ炎を発現する遺伝子は、蚊に刺されたら痒くなる遺伝子と同じく、誰もが持っているものです。それが発現するかどうかは環境によります。その「環境」が、前述の「雪だるま」です。
アトピー性皮ふ炎は環境によって生じており、したがって合理的な方法で、予防したり、自然治癒に導いたりすることができます。その具体的な方法を次章に述べます。


第7章 アトピーを自然治癒に導く方法


アトピー性皮ふ炎を自然治癒に導く作業は、前章の「雪だるま」を解かす作業です。アトピー性皮ふ炎の原因と構造を理解して、ひとつひとつ正しい手段をとり、それを根気よく続ければ、雪だるまはやがて消えてなくなります。
「ぜんそく」や「鼻炎」など他のアトピー性疾患も、炎症が起こっている場所が違うだけで、原理的には同じですから、ここに述べる方法に準じて対処すれば改善されます。

7−1 ステロイドをやめる 

第4章で、その政治状況や経済状況を含めてくわしく説明しましたように、わが国におけるアトピー性皮ふ炎の問題の、半分以上はステロイドの問題です。ですから結論は明快です。アトピー性皮ふ炎を自然治癒に導くためには、ステロイドをやめなければなりません。
やめ方としては、いきなりやめるのは危険だから徐々にやめるべきだ、という意見が、ステロイド反対派の医者からも出ていますが、そのためには「ステロイドに頼らない医者+入院設備+長い時間」が必要です。しかし逆に、そういう条件があれば、ステロイドは一気にやめることができますし、その方が効率的です。現実論としては、禁煙、禁酒、禁麻薬などと同じく、ステロイドも、思い切って一気にやめる方が成功率は高いでしょう。実際にそうして成功している人がたくさんいます。
ステロイドをやめると、リバウンドが起きて、皮膚が破れて、黄色い体液がにじみ出してきます。これは体液にステロイドの残滓(ステロイドは酸化して「酸化コレステロール」という形で皮脂に滞留しており、黄色い色になる)が含まれたものです。また、痒みも強くなって苦しいですが、2ヶ月ほどで残滓は一応出てしまい、苦しさは峠は越えます。
脱ステロイドを実行するとき一番こわいのは、皮ふの傷口から細菌が入って感染症になることです。しかし、細菌感染症との戦いこそが20世紀の医学の輝かしい歴史です。「ステロイドに頼らない皮ふ科医」を探すのはたいへんでしょうから、万一感染症にかかる場合を考えて、近所の内科医や小児科医に、あらかじめ相談しておくと万全でしょう。そのときは「皮ふは自分で治すから感染症だけをウォッチしてほしい」と、自分の考えをきちんと主張して下さい。

補遺
ステロイドを常用していると血流がとどこおって体が冷えてきます。
また、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスにも変調を来します。
自律神経のバランスが崩れることは、ガンやリューマチ、膠原病などの難病の大きな背景になっています。
新潟大学の医学部免疫学教室の教授、安保徹氏と新潟市の医師福田稔氏が提起している「福田ー安保の法則」は、そのあたりの生理メカニズムをうまく説明しています。
そしてその福田医師が主導する「自律神経免疫療法」は、交感神経を司る体のツボと副交感神経を司る体のツボをうまく刺激することで、血流を増やし自律神経のバランスを回復する療法で、現在日本の各地にこの療法が普及しつつあり、ガンやリューマチなどの難病や、ステロイド後遺症に大きな効果を発揮しています。


7−2 皮ふの消毒

「雪だるま」の帽子である、黄色ブドウ球菌などの細菌の繁殖を抑えるためには、皮ふをこまめに消毒することが必要です。消毒法には、イソジンと強酸性水があります。

強酸性水の使いすぎは危険

強酸性水について間違った考えが世の中に広まっていますので、注意してください。
強酸性水は、食塩水を電気分解して作ります。水に食塩を入れると、食塩は塩素イオンとナトリウムイオンに分れ、そこに電場をかけると、陽極(プラス)側にマイナスイオンである塩素イオンが集まってきます。塩素イオンは陽極板に電荷を与えて塩素となり、2個くっついて塩素ガスという気体になって空中に出てきます。
空中に出た塩素ガスは、ふたたびその水に溶け込んで、次亜塩素酸となります。次亜塩素酸とは消毒用の塩素のことで、本稿で一貫してその危険性を訴えてきたものに他なりません。
つまり強酸性水とは塩素水なのです
その塩素濃度は、塩素ガスが出てくる反応室の圧力をコントロールすることで自由に調節できます。強酸性水と呼ばれる水は、10 PPMから30 PPMの塩素を含んでいます(水道水は 1 PPM程度)。そもそも食塩水の電気分解とは、塩素を工業的に生産する代表的な方法なのです。
強酸性水には消毒効果があります。しかしそれ以上の効果はありません。皮ふを消毒するとは、やむをえずそうするのであって、嬉しがってやることではありません。細菌も皮ふ細胞も生命体ですから、細菌を殺す消毒は皮ふ細胞にも有害なのです。
強酸性水に積極的な治療効果があるかのようにいう人がいますが、それは間違いです。「ステロイドをやめて消毒を励行する」ことは、「雪だるま」の帽子をとって、頭部を解かすことですから、もちろん顕著な効果があります。しかし、それ以上のことではありません。結局、強酸性水を勧める人たちも、ある程度良くなればそこから先は「体質論」で、あとはもともとの体質ですから我慢しなさい、ということになります。
強酸性水の乱用は危険で、すでに被害が出ています。消毒以上の目的には使わないようにしましょう。

理由のない、アルカリイオン水

強酸性水とセットにして、「アルカリイオン水を大量に飲め」という人がいます。ひとつの装置から両方の水が出てくるので、その人たちの頭の中ではワンセットになっているようです。しかし、アトピー性皮ふ炎を良くする上で、強酸性水を皮ふに塗ることと、アルカリイオン水を飲むこととが、セットになる理由はありませんし、他の病気は知らず、アルカリイオン水のアトピー性皮ふ炎に対する効果には、論理性も科学的根拠もありません。世界中に棲息する多くの生き物の中で、霊長類人間属日本人種だけが、アルカリイオン水を飲むと健康になるというのも、かなり不思議な話であり、それでアトピー性皮ふ炎がよくなったという、確たる証拠もありません。
ただし、アルカリイオン水を作る装置はすべて、電極板の手前に大きな活性炭ボックスがあって、それで水をろ過しています。これは電極板を保護するためですが、結果的に水は浄化されます。水道水の代わりに「きれいな水」を飲料水としていれば、何か体によいことが起こるのは当然で、それは電極板のおかげではないでしょう。

イソジンは洗い流すこと

イソジンであれ、強酸性水であれ、消毒がすんだら真水で洗い流すことが大切です。細菌を殺した後も、皮ふに残っていれば皮ふ細胞を傷つけるからです。イソジンと強酸性水とはどちらがいいか、となると、消毒の力としてはイソジンの方がよいようで、多くの種類の細菌を短い時間で殺すことができます。また、薬局で売っているので便利です。
イソジンは、購入してきたそのままでは、アトピー性皮ふ炎の人には刺激が強すぎますから、水(水道水でもよい)で3倍から4倍に薄めて使います。入浴して身体を清潔にしてから、皮ふが破れているところを中心に、やわらかい「料理用の刷毛」を用いてそっと塗ります。殺菌に要する時間は2分ほどですから、2分ほどしたら、塩素のないシャワーを浴びてしっかり洗い流しましょう。ただし、ごくまれに、イソジンの材料であるヨードにアレルギーをもつ人がいます。そういう人は、強酸性水やオキシフルなど、自分に合う消毒剤を選んでください。

補遺 その他の除菌法
消毒ほど強くない、マイルドな方法で皮膚表面を除菌、防カビすることができますので、重度の感染状態でない場合や、重度の感染状態をを脱した後は、これをお勧めします。部屋やカーペットなどの除菌を目的に開発されたたんぽぽや緑茶などの天然成分から作られた新製品のスプレーでですが、人の皮膚にくっつく細菌やカビも防いでくれて、しかも刺激がなく、人の肌には無害です。刺激のない方法で除菌できるだけでも、かなり状態は改善されます。


7−3 スキンケア

アトピー性皮ふ炎の人の皮ふは損傷していて、水分やセラミド脂質などが失われています。また、損傷部からいろいろなアレルゲンが侵入して、アレルギーが起きやすくなっています。ですから、皮ふの保湿と保護のためにスキンケアはぜひとも必要であり、アトピー性皮ふ炎のトータルケアの中で、スキンケアは大きな部分を占めます。
スキンケア用品はたくさんありますが、アトピーに良い、というふれこみでも、首をかしげるようなものもあります。原則として香料、保存料、着色料などを含有しないものを選びますが、商品の性質上、保存料(パラベンなど)は避け難い面もあります。また、石油系のものは、油そのものが皮ふに良くありません。
「馬油」は、動物性の脂肪としては希有なことに、アルファ・リノレン酸を多く含んでおり、人間の皮ふにもなじみやすく、保存料が入っていないものがあります。
また、南アフリカ産の、亜鉛を多く含み活性酸素を除去する力を持つ、ルイボスという植物のエキスを含有した、ノン・オイルのスキンケア用品が商品化されました。小児科医(前田正人氏 千葉県市川市)が診察室での実践の中で、4年かけて開発したものです。前田氏はその製品発表会において、以下のように報告しています。

来院するアトピー性皮ふ炎患者のうち、比較的重症の人68名を選んでそれぞれ了解をとり、私たちが開発したルイボス配合の新しいスキンケア用品を試用した。
その結果、痒みについては使用後1週間で44名(65%)、3週間で52名(76%)の人が著しく改善し、ほとんど痒みはないということだった。赤みについては使用後1週間で43名(63%)がやや改善し、3週間後には41名(60%)の人が著しく改善し、ほとんど赤みはとれていた。皮ふ表面のザラつきについては使用後1週間で27名(40%)3週間で48名(70%)の人が著しく改善し、ほとんどザラつきはなくなっていた。これは、これまでに例を見ない、よい成績である。
(前田正人 小児科医 「ルイボソード製品発表会」 1997.10.16)


このルイボス入りクリームには、ある程度の抗菌作用があることが確認されています。

補遺 新しいスキンケア
また、沖縄の海洋深層水をベースにしたスキンケアローションが新しく開発され、それを皮膚にスプレーしているだけで、短期間に顕著な改善が見られることが、沖縄などの総合病院でのテストで報告されています。限りなく水に近いものですから皮膚にはまったく無害で、皮膚の深くまですみやかに浸透して皮膚細胞にバランスの良いミネラルを供給し、細胞を活性化して自力修復を早めてくれます。

ただし一般的に言って、皮ふの感受性は人によってまちまちで、スキンケア用品では、ある人には良かったものが他の人には合わない、ということがしばしば起こります。ですから、自分に合ったものを選ぶことが大切です。ステロイド離脱の時は皮ふの状態が混乱していて、スキンケア用品の影響を判断することは難しいのですが、それでも少しずつ試しながら、自分に合ったものを選んでください。また、スキンケアだけに頼るのではなく、トータルケアの中でのスキンケアだと理解してください。


7−4 塩素と合成界面活性剤を避ける

浴用の水道水の塩素を避けるにはいろいろな方法がありますが、塩素を中和する安価で簡便な入浴剤(商品名ユニシー)がありますから、それを浴槽に入れればよいでしょう。洗顔やよだれ拭き、おしめ替えなどのときにも使えます。
また、第2章で述べたように、塩素に関してはシャワーの方が浴槽の湯よりも危険です。シャワーには必ずシャワー浄水器をつけましょう。シャワーのヘッドごと交換する形で、市販のものがいくつかあります。浄水器のフィルターは消耗品ですから、こまめに取り換えましょう。
最近、活性炭フィルターを利用し、出口ノズルを工夫して水圧を高めることで、自然に節水ができるようなシャワー浄水器(東洋紡製)が開発されました。節水によって節約される上下水道代金、ガス代金などで、カートリッジを交換することができ、経済的です。

シャワー浄水器で浴槽に水(湯)を入れるのは、水量が多いために10日に1回くらいフィルターを交換しなければなりませんから、不経済です。

合成界面活性剤を避けることについては、まず、洗剤はすべて「せっけん」にします。顔を洗うせっけん、身体を洗うせっけん、髪を洗うせっけん、食器洗いのせっけん、洗濯の粉せっけん、掃除のせっけん、すべてせっけんにします。無香料、無添加のものが望ましく、少し高価ですがオリーブ油を原料にした「マルセイユせっけん」や「アレッポせっけん」などが良いようです。
「ベビー石けん」という商品名で、合成界面活性剤を多量に含んだものが売られていますのでご注意ください。また、アトピーに良いというふれこみで、多くの「薬用石けん」が売られていますが、刺激が強くてあまりお勧めしません。
化粧品や整髪料にも、合成界面活性剤はたくさん使われていますから注意しましょう。歯磨き粉にも2%から4%の合成界面活性剤が含まれています。お子さんの口のまわりが赤くなっていたら、歯磨き粉を疑ってください。

「磁気活水」

最近「マイナスイオングッズ」がたくさん市販されています。

その中に、水道管の根元に取り付けて家庭の水をすべて「マイナスイオン水」に変える「磁気活水器」があります。これを取り付けるとアトピーのケアに経済的で実効的です。
「マイナスイオン水」とは「その水を噴霧して測定すると、マイナスイオンがたくさん検出される水」のことです。
これは、水を電気分解して得られる「アルカリイオン水」とか「酸性水」とはまったく違うものです。
磁気活水l器にはいろいろありますが、マイナスイオンが多くカウントできる道具ほど性能がよく、保守点検や運転費などが少なくてすむものがよいでしょう。この道具を家庭に取付けると次のようなことが起こって、費用も安く手間もかからず、普通に暮らすだけでアトピーのケアができます。

◆塩素の刺激が減る
マイナスイオン水は水道水の塩素(カルキ)の化学結合を変化させるようで、入浴/シャワー時の塩素刺激がほとんどなくなります。
◆洗濯の洗剤を減らせる
衣類に洗剤が残っていると肌を刺激します。マイナスイオン水は洗濯洗剤を減らせますから、その心配がなくなります。
◆洗濯機のカビがとれる
洗濯機のドラムの外側に黒いカビがつき、それが衣類に付着して強い刺激となっています。マイナスイオン水で洗濯していると、そのカビが自然にとれてしまい、後はつきにくくなります。
◆肌につくカビや細菌も抑えられる
肌にもカビや悪い細菌がつき、それが毒素を出して痒くなります。マイナスイオン水で入浴しているとカビや悪い細菌の増殖が抑えられます。
◆ステロイド離脱を促進する
マイナスイオン水は浸透性がよいので、ぬるま湯でゆったり入浴していると、皮脂層に蓄積されたステロイドの残滓が少しずつ体外に引き出されていきます。
◆薬剤の残滓が排泄される
ゆったりと入浴することで血行が良くなるので、体内に蓄積された薬剤の残滓が血流に乗って肝臓に集まり解毒されやすくなり、大小便となって排泄されやすくなります。
◆スキンケアができる
マイナスイオン水には保湿力があり、マイナスイオンを補給する力がありますから、容器に入れて持ち歩きときどきスプレーすると、肌の乾燥や痒みが緩和されます。
◆腸内細菌が整う
薬剤の服用などで腸内細菌のバランスが崩れると体全体の免疫系の働きが乱れます。マイナスイオン水を飲用していると腸内細菌のバランスがよくなるようで、よい便がでるようになります。



7−5 皮下脂肪を燃やしてステロイドを抜く

脂溶性のステロイド(4−6)は、皮下脂肪の構成要素として、組織に組み込まれてしまっています。これを抜くには、皮下脂肪自体をある程度以上のスピードで、「急速に」燃やす必要があります。これは、正しく設計された「科学的なダイエット」を実行することで実現されます。リンゴばかり食べる、といった間違ったダイエットでは、苦しいばかりで筋肉(タンパク質)を減らしてしまい、ダイエット前よりも皮下脂肪がたまりやすい身体になってしまいます。ある程度カロリーを減らして、必要なビタミン、ミネラルを十分にとり、かつ良質のタンパク質をたくさん摂取する。これが皮下脂肪を「急速に燃焼させる」正しいやり方で、それは科学的に正しいダイエット法でもあるのです。実際にこの方法で皮下脂肪を急速に燃焼させ、ステロイドの排出に成功した人がたくさんいます。
「大豆タンパク」を主体にしたダイエット用の栄養補給食品があります。

7−6 亜鉛を摂取する

1934年にドイツのトッドらの学者は、ネズミの食事から亜鉛を除いて飼育するという実験をおこないました。
すると、それらのネズミは成長が止まったり、食欲がなくなったりしました。また、皮ふ炎にかかったり、さらに生殖機能が衰えるなどの症状が観察されました。
つぎに、このネズミに亜鉛を与えました。すると、これらの症状は完全に回復しました。 
(「亜鉛は糖代謝、成長に必須のミネラル」 京都薬大教授桜井弘著 ハート出版)

亜鉛は生命活動に重要な役割をはたしていますから、亜鉛不足はアトピー性皮ふ炎に限らず、さまざまな生活習慣病の背景になっています。ニキビや吹き出物、主婦の湿疹、老人の痒みなど、アトピー以外の「皮ふの不調」も、亜鉛不足が関係していそうです。
亜鉛を補給するには、海藻類や貝類を食べるとよいでしょう。とくに牡蛎(カキ)には亜鉛が豊富に含まれています。ただし、養殖のカキは抗生物質を投与されていたり、汚れた海で育てられたりして貝毒事件を起こしており、養殖場所によってはあまりお勧めできません。最近は、栄養補給食品としてカキの貝殻カルシウムを含んだものがありますから、それを利用するのも一つの方法です。ほかのミネラルも同時に補給できます。
また、ビール酵母から作った「スーパージンク」という亜鉛専門の栄養補給食品も開発されています。1日3粒で15mg(1日必要量は10mgから15mg)の亜鉛が摂取できます。

亜鉛はまた、SOD(活性酸素除去酵素)を構成する枢要な材料です。
「アトピー性皮ふ炎の人は、先天的にSODを作る力が足らない」(1−8)、と勝手に決めつける人がいて、その人は、「だから私が開発した「SODのような食品」を直接とる必要がある」と主張しています。
しかしそんな「先天的な能力不足」の証拠はありません。おそらくSODの材料(亜鉛など)が不足しているだけですから、材料を供給すれば十分ですし、その方がずっと経済的です。

明るい気持ちで

さて、せっかく亜鉛が補給できたら、こんどはそれを無駄に消費しないように気を付けて、亜鉛はできるだけ、皮ふの損傷を治すために使いましょう。
まず、無用な精神的ストレスを避けるようにします。精神的ストレスは亜鉛の消費量を増大させます。笑う門には福きたる、という昔から知られた真理があります。気の持ちようで、世の中のことはポジティブに受け止めることができます。
アトピーで困っている人は、医者から「皮疹は治せるが、あんたの体質までは知らんよ」などと、まるで自分が悪いかのように言われて滅入っていたわけですが、本稿をここまで読めば、そんなことはない、必ずよくなると自信がもてたでしょう。治癒への道のりは、途中つらいこともありますが、明るい気持ちで根気よくやりましょう。
また、精神的ストレスという意味で睡眠不足も大敵です。夜中に、しかも睡眠中にしか分泌されない、皮ふの成長ホルモンがあって、それが欠けると肌荒れが生じます。昼間にいくら寝てもだめなのです。夜の仕事の女性に肌荒れが起こるのはそのためです。夜はきちんと眠るように、生活のリズムを整えましょう。

食品添加物は避ける

食品添加物は出来る限り避けます。毒性のある化学物質が体内に入ると、亜鉛の吸収が妨げられ、また解毒のために亜鉛の消費が増大するからです。まっ黄色のタクアンは買わない、まっピンクのハムは食べない。保存料で固めた土産物のまんじゅうも買わない、食べない。そのように、食品を選別する意識を持ちましょう。私たちの体は、私たちが食べた物で出来ている(We are what we eat)のですから。
過度の飲酒も、体内でのミネラル消費を増大させますから避けましょう。喫煙も、毒素を排出するためのミネラル消費を増大させ、毛細血管を収縮させて新陳代謝を阻害し、煙が皮ふを刺激しますから、何重の意味でも避けるべきです。


7−7 アルファ・リノレン酸を摂取する

現在1:5まで増えてきた、アルファ・リノレン酸(オメガ3)とリノール酸(オメガ6)との摂取比率を、昔のように、1:3くらいまで下げましょう。国民栄養調査が示すように、現代の日本人は脂肪の摂取量が多すぎます。ですから、まずは脂肪の摂取量そのものを減らします。炒め物、てんぷら、ケーキ、ハンバーグ、ステーキ、焼き肉などなどの脂っこい食事を減らします。ダイエットにもなりますし、コレステロールも減ります。これでリノール酸の摂取量も自然に減ります。
その上で、さらにリノール酸の摂取量を減らします。炒め物に使う食用油を、通常の植物油(リノール酸)から、オメガ9という化学構造のオレイン酸と呼ばれる脂肪酸である、オリーブ油などに替えましょう。南イタリアや地中海地方では、オリーブ油を常用しているため、コレステロールが少なく、心臓病も少なくなっています。
てんぷらなどの揚げ物には、オリーブ油より価格の安いキャノーラ油(改良型菜種油 オメガ9)を用います。
次に、アルファ・リノレン酸の摂取量を増やす工夫をします。アルファ・リノレン酸は壊れやすい油ですので、揚げ物や炒め物には適しませんが、サラダのドレッシングなど、加熱せずに食べる油に、亜麻からとれる「亜麻仁油」などを使うと、アルファ・リノレン酸の摂取量を増やすことができます。納豆に亜麻仁油をかけて毎日食べると、皮ふがきれいになると言われています。
イワシやアジやサンマなどの青背の魚(青魚)の油にはアルファ・リノレン酸がEPAとかDHAという形でたくさん含まれていますので、積極的に摂取しましょう。EPAは、血液をサラサラにして流れやすくしてくれますから、心疾患や血管の疾患の予防にもなります。DHAは人間の脳神経と眼底にたくさん存在しており、DHAを補給すると、子どもたちの学校の成績も上がり、近視もよくなるようです。NHKの朝の番組「女の大研究」で、学校給食を供給しているパン屋さんが、青魚の油をまぜてパンを作ったところ、その学校の子供たちの目がどんどんよくなったことや、ある病院では、青魚の油で、痴呆症の進行が止まったというレポートがありました。最近は、青魚の油をカプセルにした栄養補給食品もあります。

マーガリンは食べない

マーガリンやショートニング(味のないマーガリンのこと・パンやケーキのつなぎに使われている)は避けるべきです。それらは単にリノール酸というだけでなく、植物油などに水素添加して人工的に作られた不飽和脂肪酸で、「トランス型脂肪酸」という形になっていて、もとの性質が失われて有害性が高いからです。
細胞は細胞膜でおおわれています。脂肪酸はその細胞膜を構成する物質です。細胞膜が、マーガリンやショートニングなどに由来するトランス型の脂肪酸で形成されると、その細胞膜は弱くて働きが悪いものになり、皮ふ細胞の場合は有害物質の侵入を許しやすくなって、皮ふトラブルの元となります。欧米諸国ではすでに、トランス型の脂肪酸を含む食用油の一部は販売禁止になっており、トランス型の脂肪酸を含まないマーガリンが、「トランス・ファット・フリー」と表示されて販売されるようになっています。その基準を適用すれば、わが国のマーガリンのほとんどが販売禁止になります。これを放置していることもまた、日本のアトピー問題を深刻にしている、わが国特有の条件のひとつと言えるでしょう。

7−8 良質のタンパク質で皮ふを修復する

タンパク質は英語でプロテインと言い、その語源はギリシア語で、「もっとも重要なもの」という意味です。タンパク質は、体を作るもっとも重要な材料なのです。ですから、良質のタンパク質を大量に摂取すると、ステロイドの排出を促進するほかに、皮ふ細胞自体の再生、新陳代謝も促進されます。たとえば、重度のヤケドを負ったときなど、病院では大豆タンパクを大量にとらせて、皮ふ細胞の再生をうながす療法がとられます。大きな傷を負ったときも、タンパク質を供給すると早く傷が回復します。
同様に、良質のタンパク質を補給することで、アトピー性皮ふ炎で損傷している皮ふの回復を早めることができます。大豆タンパクを粉末にした栄養補給食品があります。

7−9 アレルゲン対策

アレルギーはアトピー性皮ふ炎の「影」です。本体がある限り影が消えることはなく、影と闘っても本体が消えることはありません。しかし、現実に何らかのアレルギーが起きているときは、それはアトピー性皮ふ炎を悪化させますから、アレルギー反応を起こす「アレルゲン」となっていそうなものを、できるだけ排除することが必要です。
除去食については、明らかにそれを食べるとアレルギーが起きると分かっていれば、それは食べない方がよいでしょう。しかし、その食物アレルギーも、アトピー性皮ふ炎の本体が好転してくれば、だんだんよくなってきます。
ダニはアトピー性皮ふ炎を悪化させます。こまめに掃除し、空気を入れ換えて、ダニが繁殖しないようにすることが必要です。カーペットなどはやめましょう。ふとんを干すときは黒い布をかぶせておくと、太陽熱が浸透して高温でダニが死滅します。
新建材などから出るホルムアルデヒドもアトピーを悪化させます。
ディーゼル排気ガスもアレルギーの一因です。なんとか工夫してディーゼル排気粒子を吸い込まないようにしましょう。
その他、いろいろな化学物質がアトピー性皮ふ炎を悪化させますので、悪化要因と分かっているものや、そう推測されるものには近づかないようにしましょう。
ただし、アレルギーは「アトピーの影」ですから、あまり神経質になることはありません。

ぜんそく・鼻炎・花粉症

亜鉛などのミネラルを補給し、脂肪酸のバランスを回復し、良質のタンパク質をとる。これらのことを実行すると、2ヶ月から3ヶ月で、アレルギー反応そのものが収まってきます。ぜんそく、鼻炎、花粉症など、身体の内表面に生じているアレルギー反応も、しだいに収まってくることが、多くの例で実証されています。


7−10 自然治癒への道のり

これらの方法を総合的に実施したとき、治癒に至るまでの期間はどのくらいでしょうか。
これは人によっていろいろです。それまでの薬剤使用の経過によってもいろいろです。その前提の上で、重症のアトピー性皮ふ炎の人の場合での一応の目安を言いますと、

1.最初の2ヶ月は非常に苦しい時期です。(悪化しているように見えます)
2.3ヶ月目の終わり頃には、かなり楽になるでしょう。
3.その後、何度かアップダウンがあります。
4.6ヶ月後には、まずまず普通の生活ができるようになるでしょう。
5.またアップダウンがあって、1年後には、ほぼ良くなるでしょう。
6.2年後には、アトピー性皮ふ炎であったことを忘れることがあります。
 

ここまで述べた総合的な対策は、「皮ふへの刺激を避け、正しい栄養をとる」という、ただそれだけのことです。それでもなお、最初の1ヶ月から2ヶ月くらいは、悪化したように見えます。何も悪いことはしていないのですから、これは、その人の体の中にステロイドなどを始めとする悪いものが残っていたからだ、と考えるしかありません。
それでも、皮ふの新しい細胞が基底層で生まれてから、角質層で垢となって落ちるまで約1ヶ月かかりますが、そのくらいの期間で、悪化したように見える現象は、しだいに収まってきます。ですから、最初が我慢のしどころです。
焼け火箸を持ったままではヤケドは治りませんが、焼け火箸を放したからといって、すぐに治るものではありません。同様に、塩素や合成洗剤を避けることは、マイナスをなくすということですから、治癒へのプラス効果には限界があります。
治癒までの期間は、スキンケアと栄養補給がうまくゆくと短くなります。筆者の知る例では、徹底的な栄養改善、補給によって、重症のステロイド障害も7ヶ月で急速な改善を見ています。乳幼児の場合は、成人よりも早く改善されるようです。
しかし、栄養補給食品を利用する場合は、今までと違うものを食べるわけですから疑心暗鬼になりがちです。本人はやる気でも、まわりの家族がそういう気分になると、初期の「悪化しているように見える」期間に、やめてしまうことになります。ですから栄養食品などは、初めは家族が試してみて、無害であると確信できてから本人がやってみる、というのもひとつのやり方でしょう。

アトピー性皮ふ炎の原因と構造を理解すれば、治癒への道はおのずと明らかです。しかし、それを実行して何度かのリバウンドを克服していくことは、けっして楽なことではありません。
第1に本人の決意、第2に家族など周囲の理解と励ましが必要です。

しかし、決意をもって出発し、勇気と根気と明るさをもって継続すれば、やがて必ず目的地に到達できます。期間は人によって違いますが目安は2年です。

具体的なことについては、下の「お問い合わせフォーム」でお問い合わせください。著者のアドバイスとともに、アトピー克服のためにおすすめできる品々をご紹介いたします。